リナリア
 切り続けられるシャッター。少しだけ吹いた風に髪を押さえる。そしてそのまま振り返った。

「そろそろ終わりにしません?」
「うん。」

 最後に切られたシャッター。

「確認してもいい?」
「もちろんです。ボタン、わかりますか?」
「ここ押していいの?」
「はい。」

 一番最初に画面に映し出されたのは、最後に撮った一枚だった。

「これ、いいね。これって、スマホに送れるの?」
「送れますけど…嫌ですよ?」
「えーだって俺が撮ったじゃん。」
「肖像権は私にあります。」
「それはそうなんだけど、これだけでいいからお願い。悪用はしない。」
「…何に使うんですか。」
「使わないよ。俺でもこういうのが撮れるんだっていう証明みたいな感じ。」
「…よくわかんないですけど、スマホのブルートゥースをオンにしてください。それで送ります。」
「ありがとう。」

 一枚を送り、知春が撮った自分の写真を確認する。動きも表情も硬くて、自分は本当にモデル向きではないことを自覚する。

「…モデルさんってすごいですね。絶対なれないです。」
「でも、モデルの自然な表情や動きを引き出すカメラマンにはなれるよ。」
「そうですか?」
「俺の写真の表情、割と柔らかくない?」
「…そうですね。」
「なんだか気が抜けるようになっちゃったんだよなぁ、名桜との撮影は。」
「それ、仕事に支障が出ていますか?」
「出てないけど、なんていうかいい意味で素が出ちゃうというか。肩肘張らなくていいのは楽でいいんだけどさ。たまに、こんな楽してていいのかなーって思うときがある。」

 そう言って知春は笑った。
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