リナリア
* * *

「失礼します、2年の麻倉です。文化祭準備の様子の撮影をさせてください。」
「あれ、名桜ちゃんじゃん。めずらしー!久しぶり!」
「小島さん。お久しぶりです。」

 放課後はもう文化祭の準備だ。そんな中、名桜は写真部の企画展のための撮影で3年生の教室を回っていた。おそらくいないだろうと思っていた人がそこにはいたため、思わず目が丸くなった。目が合ってすぐに逸らしてしまったのは、あの手を思い出してしまったからだった。

「なんでいるんですかって顔してるよ、名桜。」
「えっ…文化祭は出れるんですか?」
「内部の日だけね。」
「そうでしたか…。」

 なんとか目を合わせて会話をする。目を合わせないなんて失礼だ。

「名桜ちゃんは撮影?」
「あ、はい。文化祭の準備から当日の様子を写真に撮って現像して貼るコーナーを作ろうと思っていまして…。渡り廊下の掲示板を両側とも確保したので、写真部で分担して撮影をしています。私は3年生の担当です。」
「なるほどね。じゃあたく、良かったじゃん。名桜にいっぱい撮ってもらいなよ、王子姿。」
「王子…?」

 名桜は黒板を見つめた。タイトルが大きく『シンデレラ』と書かれている。その隣の隣には王子の名前もある。

「小島さんが、王子様なんですか?」
「クラスの投票でそうなったんだよね。いい配役だと思わない?」
「…知春さんにならなかったところに皆さんの配慮を感じます。」
「うん。俺もそう思う。」
「…知春のバカ…まじでありえねぇ…お前と違って俺にキザなセリフは絶対似合わん!」
「ちょっと待って。」
「知春のその顔と雰囲気だから言っても許されんの。俺は王子ってガラじゃねーって話。」
「…そうでしょうか?」
「え?」
「小島さんが作る『王子様』にしたらいいんじゃないですか?王子様は一パターンではありませんし。」

 名桜は拓実との距離を少し詰めた。
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