リナリア
「座ってみてもらえますか?」
「う、うん。」

 名桜たちの周りにクラスの人が集まり始めた。名桜は構わず続ける。

「あ、そんなかたくならずに…なんというかえっと…いつものようにと言ったらいいんでしょうか…。あ、はい。そんな感じです。」

 拓実は大きく足を開いた状態で座った。ギャラリーが増えてきたからなのか、少し機嫌が悪そうだ。

「じゃあ次は知春さん。隣の椅子にお願いします。」
「うん。」

 足は少し開かれるが拓実ほどではない。

「座り方一つで、違いがあります。たとえば、物語の王子様の座り方であればきっと知春さんの方が王子様っぽいというのはわかります。知春さんは所作自体が綺麗ですし、そもそも姿勢がとてもいいんです。
 じゃあ小島さんが王子になれないかというとそうではなく、…あの、えーっと…そうですね、知春さんの方向性とは逆の王子を設定してしまえばいいと思うんです。いわゆる物語の王子様のような綺麗で整ったタイプではなく、ちょっと男っぽくてワイルドな…で、言葉が適切かはわからないんですけど…。ど、どうでしょう?」
「採用!」

 名桜の背後のギャラリーの中から声がした。

「麻倉さん!ありがとう!つまり小島くんが王子様に近付くのではなく、脚本の中の王子様を小島くんに近付ける、と。」
「あ、そうなりますね!脚本の担当の方ですか?」
「ええ。…小島くんの魅力を最大限に引き出す脚本にするから見てなさいよ…。」
「ちょっ…おま…待てって!落ち着け頼む。余計なことすんな!」
「拓実ー!往生際が悪いぞ!」

 クラスメイトにもみくちゃにされる拓実を見て、名桜は思わずシャッターを切った。教室のあちらこちらに、真剣な顔がたくさんある。
 ポンと頭の上に乗った手に、名桜はカメラから目を離した。見上げた先で知春が困ったように笑っている。
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