リナリア
* * *
(…今のは、どういう…というか、絶対聞いてはいけない類の話だった…。)
今日は知春のクラスのポスターの撮影ということで名桜は3年の教室の周辺まで来ていた。ふと聞いた覚えのある声がして立ち止まったら動けなくなり、引き返そうと思った矢先に聞こえた最後の拓実の言葉。深入りしてはいけないと思うのに、思考がそれを止めてくれない。
「おー名桜ちゃん。今日はよろしくー。」
「こ、小島さんっ…。」
後ろから声を掛けられて、名桜の声がやや上ずった。聞いていたことが知られてしまうとまずいことは、本能的にわかる。
「よろしくお願いします!」
「あれ、今日めちゃくちゃ気合入ってる?多分知春まだだし、知春のことは撮れないと思うけど…。」
「あっ、いえ、知春さんを撮りたいってわけじゃなくて…。でも、気合は入ってます。頑張ります!」
「はははー厳しくしないでね、俺、プロじゃないから。」
「厳しくなんてそんな!」
すぐさま頭を下げてよかった。顔が少し戻せたような気がする。それに、ふと一人になったり考える時間を与えられたりすると、さっきの言葉の意味を考えてしまいそうだった。今は純粋にやるべきことがあるのは名桜にとってありがたかった。
教室に入ると、一部にセットが用意されていた。背景として使えるように準備をしてくれていたようだ。
「失礼します。麻倉です。よろしくお願いします。」
「待ってたよー!おー拓実、いい感じじゃん。」
「小島くんだけのもお願いしていい?」
「あ、はい、もちろんです。」
「はぁ?なんで俺一人で…。」
「ごめん、遅れた!」
「知春来たー!」
「早く着替えて!」
一瞬だけ目が合ったものの、少し斜めに逸らしてしまった。
「はぁ…まぁ、やんなきゃ終わんねーし…どうしたらいい?言われた通りに動くよ。」
「あ、あの、ガラスの靴ってありますか?」
「あるよー。」
「それ、貸していただけますか?」
「はーい。」
名桜は小道具のガラスの靴を受け取ると、拓実に手渡した。
「これ、持ってればいいの?」
「そのセットの窓に片手、かけてもらって、あの…ガラスの靴を夜の月にかざす感じで、どこかにいるシンデレラに想いを馳せる横顔にしようかと。」
「…想いを馳せるとか、結構難しいこと言うね。」
「遠くを見つめる感じ…で、伝わりますか?」
「うん。とりあえず下手でも勘弁してよ。」
「も、もちろんです。」
拓実はガラスの靴を持ち、遠くを見つめる。ふぅ、と小さく漏れた息にシャッターを切る。
(…今のは、どういう…というか、絶対聞いてはいけない類の話だった…。)
今日は知春のクラスのポスターの撮影ということで名桜は3年の教室の周辺まで来ていた。ふと聞いた覚えのある声がして立ち止まったら動けなくなり、引き返そうと思った矢先に聞こえた最後の拓実の言葉。深入りしてはいけないと思うのに、思考がそれを止めてくれない。
「おー名桜ちゃん。今日はよろしくー。」
「こ、小島さんっ…。」
後ろから声を掛けられて、名桜の声がやや上ずった。聞いていたことが知られてしまうとまずいことは、本能的にわかる。
「よろしくお願いします!」
「あれ、今日めちゃくちゃ気合入ってる?多分知春まだだし、知春のことは撮れないと思うけど…。」
「あっ、いえ、知春さんを撮りたいってわけじゃなくて…。でも、気合は入ってます。頑張ります!」
「はははー厳しくしないでね、俺、プロじゃないから。」
「厳しくなんてそんな!」
すぐさま頭を下げてよかった。顔が少し戻せたような気がする。それに、ふと一人になったり考える時間を与えられたりすると、さっきの言葉の意味を考えてしまいそうだった。今は純粋にやるべきことがあるのは名桜にとってありがたかった。
教室に入ると、一部にセットが用意されていた。背景として使えるように準備をしてくれていたようだ。
「失礼します。麻倉です。よろしくお願いします。」
「待ってたよー!おー拓実、いい感じじゃん。」
「小島くんだけのもお願いしていい?」
「あ、はい、もちろんです。」
「はぁ?なんで俺一人で…。」
「ごめん、遅れた!」
「知春来たー!」
「早く着替えて!」
一瞬だけ目が合ったものの、少し斜めに逸らしてしまった。
「はぁ…まぁ、やんなきゃ終わんねーし…どうしたらいい?言われた通りに動くよ。」
「あ、あの、ガラスの靴ってありますか?」
「あるよー。」
「それ、貸していただけますか?」
「はーい。」
名桜は小道具のガラスの靴を受け取ると、拓実に手渡した。
「これ、持ってればいいの?」
「そのセットの窓に片手、かけてもらって、あの…ガラスの靴を夜の月にかざす感じで、どこかにいるシンデレラに想いを馳せる横顔にしようかと。」
「…想いを馳せるとか、結構難しいこと言うね。」
「遠くを見つめる感じ…で、伝わりますか?」
「うん。とりあえず下手でも勘弁してよ。」
「も、もちろんです。」
拓実はガラスの靴を持ち、遠くを見つめる。ふぅ、と小さく漏れた息にシャッターを切る。