リナリア
「目線こちらじゃなくていいので、ガラスの靴を置く所定の場所まで動いていただいても?」
「うん。あ、どこだっけ。あ、あれの上か。」

 その動きを追いかけて何枚かシャッターを切る。

「着替え終わったよ。サイズぴったり。あ、ごめん、邪魔した?」
「名桜ちゃん、終わったー?」
「あ、はい!ちょっと確認させてください。」

 名桜は撮影したものを確認する。監督の先輩に声を掛け、確認してもらう。

「私としてはこれがいいと思うのですが、正面の方がいいですか?」
「そうだなぁ…正面も欲しいところではあるんだけど、いけるかなぁ?」

 丁度その時、椋花が教室に入ってきた。シンデレラ役の女子もシンデレラの舞踏会のドレスに着替えている。

「あの、シンデレラがドレスに着替える前の洋服ってありますか?」
「あるけど、それがどうかした?」
「それを…シンデレラと髪型や背格好の近い方に着ていただきたいのですが…。」
「背が近いっていうと椋花じゃない?髪もまとめたらいい感じだと思うけど?」
「え、わ、私?」
「うん。だってカメラマンさんのご要望だし。椋花なら衣装のサイズもピッタリでしょ。」
「ちょっと本気?」
「本気です!お願いします!」

 拓実をただ正面から撮るのはおそらく無理だ。とすれば、もっとキャストを増やすしかない。

「知春さん。」
「なに?」
「知春さんの背中だけなら、撮影しても大丈夫だと思いますか?」
「名桜は魔法使いの背中があった方がいいって今思ってるんでしょ?」
「…はい。」
「じゃああった方がいいに決まってるよ。大丈夫かどうかじゃなくて、良いもの作ろう。」
「はい!」

 やるべきことのためならば、知春の目を見つめられる。知春は小さく目を細めた。

「階段に移動していただいてもいいですか?」
< 124 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop