リナリア
「大人も出すようなコンクールでもガンガン賞獲ってんじゃん。で、モデルの撮影も始めてるでしょ?」
「…多少は、ってだけです。」
「名桜にとって、写真は何?」
「え?」

 目つきが優しくはなくなった。真っ直ぐに見据えられるその目は、演技じゃない。

「カメラ、貸して?」

 名桜は首にかけていたカメラをそっと外し、知春に手渡した。すると、知春はカメラを構える。名桜をそのレンズに映して。

「シャッター切ったら怒ります。」
「切らないよ。ただ、名桜がここから俺をどう見たのか気になっただけ。」
「…さっきの質問、答えます。私にとって写真は、切り取るもの。」
「何を?」
「どうしてもそこに残したい、一瞬を。」

 多分あの撮影で、あまりにも完璧であることに不安になったのだと思う。どこでこの人は休むのか、年相応のそのままのこの人はどこにいるのかと。そんな思いをもちながら見つけた、あの一瞬。あれが、あの時の名桜の『切り取りたい時間』。

「…なるほどね。じゃあ今なら何を撮りたい?」
「…そこの花。」

 朝出会った、名も知らぬ花がまた風に揺れている。

「どうして?」
「名前を知らないから。それと、花はその季節にしか見られないものだから。」
「じゃあ返すよ。撮って。」
「…ありがとう、ございます。」
「俺がいたら邪魔?」
「いいえ。あなたは被写体として面白いと思っています。」
「じゃあ一緒に映ってもいい?」
「え?」
「適当に花と遊ぶから、もし『切り取りたい一瞬』があったら撮って。」
「…はい。」
「あ、それと。」
「…?」
「あなた、じゃなくて知春でいいよ。俺も呼び捨ててるし。」

 そう言って少しだけ笑った知春は、普通の高校生みたいでなんだかほっとする。
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