リナリア
 花に触れる手も、きっと何かを意識しているわけではないのだろうけれど、所作そのものが綺麗だ。整った顔、というのもあるけれど、それだけではこんなに売れはしないだろう。テレビをあまり見ない名桜でも、名前を知るくらいなのだから。

「…何か、習い事とかしてたんですか?」
「こういう質問のときってさ、カメラマンの方見ていいの?」
「いや、こっち見なくていいです。そのまま自由にしてください。」
「名桜はそういうタイプね。わかった。習い事かぁ…スイミングは行ったかな。あとは特に。」
「習字とか生け花とか、お茶とかは?」
「え?」

 知春は目を丸くして名桜の方を見た。

「え?なんか変なこと言いましたか?」

 ファインダー越しに目が合って、名桜の方が焦る。

「やってないよ。なんでそういう習い事やってるって思ったの?」

 知春の目は花を見つめていない。これじゃ、写真の趣旨が変わってしまう。

「目線こっちにいらないです。」
「あ、そうだった。ごめん。でもなんでかは答えて?」
「…所作が綺麗だから。どこで身につけたのかなって。」
「顔も綺麗で所作も綺麗?」
「聞こえてたんですか、あれ。」
「聞こえない方が無理でしょ?」
「だってあの時、何気なく流してたから聞こえてなかったかと…。」
「いちいち顔綺麗ですか?ありがとうございますなんて言わないよ。でも、まぁそんな綺麗とかは言われないけどね。驚いた。」

 今度は知春が芝生の上に寝転がった。空を見つめる目は、どこか寂しげにも見える。何故かはわからないけれど。
 名桜はその横顔の奥に花が映るように、位置を変えた。そして再び、うつぶせになる。
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