リナリア
「うわべじゃなくて、それは知り得た感情なんですね。」
「あ、そう見える?」
「はい。役者の方は、どんなことも無駄にならないって聞きました。」
「なにその話。」
「たとえば嬉しいとか楽しいみたいな普通の感情もそうだけど、悔しいとか悲しいとかそういう感情も全部芝居に生きるって。そう考えたら無駄がなくていい仕事ですよね、お芝居で生きるというのも。」
「…すごいね、その考え方。じゃあ、今の気持ちも無駄にならない、と。」
「私はお芝居のことはわからないですけど。でも、その言葉はいい言葉だと思いました。」
名桜がそう言うと、知春は少しだけ俯いた。
「そうだね。いい言葉だと思う。どんなことでも糧にしてやるっていうハングリーさも感じる。」
「…私はそこまで考えてたわけじゃないですが…。」
「他のも見せて。」
「顔が映ってるのはこっちですね。ここから。」
「…気ぃ抜けてるね。ほんと。」
「演技してってお願いしてないですから。」
「うん。」
「こういう気の抜けた…が合ってるかはわかりませんが、こういう表情も素敵です。需要と供給のバランス的に、皆さんにお見せできないのがもったいないくらいには。」
「お見せすることになるよ、そんな遠くないうちに。」
「嫌なんですか?」
それは気になることだった。被写体に嫌な思いをさせるくらいなら載せたくはない。
「スタジオで見た時はちょっと嫌だったけど、名桜と話してたらどうでもよくなった。でも、今度の撮影のときは目を瞑ってほしい。正面からはがされたら、さすがに怯む。」
「…嫌なことはしません。仕事の依頼なのに。」
「だよね。じゃあ、連絡先も教えて?」
「…それ、仕事関係ないですよね。仕事の依頼なら父へ。」
「名桜直通の方が楽。」
「…どんな理由ですか、それ。」
「悪用しないよ。悪用しないでね。」
「しませんけど。」
渋々、スマートフォンを取り出した。本当は有名芸能人の連絡先なんて欲しくない。トラブルに巻き込まれたら厄介だ。それでも拒めないのは、このひとが普通のひとでもあることに気付いてしまったから。
「あの写真、送っておいて。」
「どれですか?」
「手と花のやつ。」
「顔のじゃなくて?」
「顔のやつほしいとか、ナルシストじゃん。手と花の写真の方がすき。」
「わかりました。」
昼休み終了のチャイムが鳴る。全く休んだ気がしない休み時間が、終わった。
「あ、そう見える?」
「はい。役者の方は、どんなことも無駄にならないって聞きました。」
「なにその話。」
「たとえば嬉しいとか楽しいみたいな普通の感情もそうだけど、悔しいとか悲しいとかそういう感情も全部芝居に生きるって。そう考えたら無駄がなくていい仕事ですよね、お芝居で生きるというのも。」
「…すごいね、その考え方。じゃあ、今の気持ちも無駄にならない、と。」
「私はお芝居のことはわからないですけど。でも、その言葉はいい言葉だと思いました。」
名桜がそう言うと、知春は少しだけ俯いた。
「そうだね。いい言葉だと思う。どんなことでも糧にしてやるっていうハングリーさも感じる。」
「…私はそこまで考えてたわけじゃないですが…。」
「他のも見せて。」
「顔が映ってるのはこっちですね。ここから。」
「…気ぃ抜けてるね。ほんと。」
「演技してってお願いしてないですから。」
「うん。」
「こういう気の抜けた…が合ってるかはわかりませんが、こういう表情も素敵です。需要と供給のバランス的に、皆さんにお見せできないのがもったいないくらいには。」
「お見せすることになるよ、そんな遠くないうちに。」
「嫌なんですか?」
それは気になることだった。被写体に嫌な思いをさせるくらいなら載せたくはない。
「スタジオで見た時はちょっと嫌だったけど、名桜と話してたらどうでもよくなった。でも、今度の撮影のときは目を瞑ってほしい。正面からはがされたら、さすがに怯む。」
「…嫌なことはしません。仕事の依頼なのに。」
「だよね。じゃあ、連絡先も教えて?」
「…それ、仕事関係ないですよね。仕事の依頼なら父へ。」
「名桜直通の方が楽。」
「…どんな理由ですか、それ。」
「悪用しないよ。悪用しないでね。」
「しませんけど。」
渋々、スマートフォンを取り出した。本当は有名芸能人の連絡先なんて欲しくない。トラブルに巻き込まれたら厄介だ。それでも拒めないのは、このひとが普通のひとでもあることに気付いてしまったから。
「あの写真、送っておいて。」
「どれですか?」
「手と花のやつ。」
「顔のじゃなくて?」
「顔のやつほしいとか、ナルシストじゃん。手と花の写真の方がすき。」
「わかりました。」
昼休み終了のチャイムが鳴る。全く休んだ気がしない休み時間が、終わった。