リナリア
仕返しの一枚
* * * 

(ゴールデンなウィークはどこいったの…?)

 名桜は毎日スタジオにいた。ゴールデンウィークに入る3日前に知らされた自分の仕事量に、父を睨んだ。すると父は笑いながら、

「売れっ子になったなぁ、名桜も。」

なんて軽々しく言うものだから足を蹴飛ばした。

(おかしいでしょ…オフがない…どこぞの芸能人か…。)

 カメラを持ってぶらりとどこかに行こうかとも思っていた。しかし父に渡されたスケジュールを見た瞬間に、そんな甘い考えは瞬時に投げ捨てた。
 今もお昼を過ぎたというのに昼食はとれなくて、代わりにゼリードリンクを飲み干そうとしている。

「…次は、読者モデルさんだっけ?」
「初めての撮影らしい。」
「そういうのは安田さんの方が…。」
「呼んだ?名桜ちゃん。」
「安田さん!」
「すっかり一人前のカメラマンだよね、名桜ちゃん。お疲れ様。」

 優しい笑顔と、温かい手。その手が名桜の頭をポンポンと軽く撫でた。

「名桜ちゃんも十分できてるよ、初めてのモデルの子相手でも。自信もって。」

 安田のように笑顔が明るいわけでもなければ、気の利いたことも言えない自分が安田ばりに働けているとは思えない。しかし、その優しさに後押しされて、ゼリーを飲み干した。

「で、ラブポップの撮影終わったら、今日の最後は伊月くん来るからね。」
「え?今日なの?」
「名桜にもスケジュール渡しただろう?」
「こなすので精一杯だよ…。」
「伊月くんのは宣材写真だから、そんな時間かからないと思うけどね。名桜がいいってご指名だし。」
「…それも本当に意味がわかんないんだけど。」

 あの日話して以来、学校では会っていない。連絡も、写真ありがとうの一言以降は何もない。向こうは向こうで忙しいし、名桜は名桜で忙しい。
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