リナリア
 麻倉に雑誌を渡し、知春は名桜の向かい側の椅子に座る。そして台本を開く。今撮影しているドラマのものだ。セリフを覚えるのはどうやら早いほうであるというのは、最近知ったことだ。
 パラパラめくりながら、感情を追っていくような気分で読んでいく。泣くのが効果的ならば泣くし、泣くのが胡散臭くなるのならば泣かない。涙もこんなにコントロールができるものなのかと、やり始めてから驚いた。

 そうこうしているうちに30分ほどが経った頃。

「…ん…ん!?ね…寝て…。」
「た、よ。おはよう。」
「知春さ…!私どのくらい寝て…。」
「30分くらい?」
「すみません!今すぐ撮影しましょう!」
「いいよ、まずは顔でも洗ってきたら?目、さめるよ。」
「…走って行ってきます。」
「いいってば。」

 そんな知春の声は名桜には聞こえていないようだった。名桜はバシャバシャと顔を洗って、大急ぎで戻ってきた。

「お待たせしました。宣材写真ですよね。」
「うん。手加減してね。」
「手加減も何も…。」
「あ、名桜ちゃん起きた?」
「安田さんっ…!」
「アシスタントとして入ります、安田です。よろしくお願いします。」

 名桜の少しだけ染まった頬を見ただけで察してしまえる観察能力が、おそらく演技の役にも立っているのだと思う。

「よろしくお願いします。」
「名桜ちゃん、ライトは強くする?」
「んー…どうしましょうかね。知春さん、どういうイメージでとかありますか?」
「名桜がしたいようにしようよ。」
「んー…じゃあ…ライトは抑えましょう。レフ板は使って、目のハイライト入れていきましょうかね。」

 完全に目は覚めているようだった。テキパキとした指示を出す姿はさっきまで眠っていた人とは思えない。
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