リナリア
「名桜。」
「はい?」
「座る?立つ?動く?」
「…そうですね、知春さんは動いていた方がいいかなって思うんですけど、そうなるとハイライト入れるのきつくないですか?」
「そうだなぁ…。でもハイライト入れなくても十分、目のインパクトあるけどね。」
「それもそうですね。…じゃあ、自由に動きましょう、知春さん。」
「テーマなく動くの難しくない?」
「そうですよね…。」

 困った。被写体は十分な輝きを放っているのに、ポーズを指定するのも変な話だ。

「名桜ちゃんとお喋りしたら?」
「え?」
「お喋りしながら撮る。色々アイテム置こうか。椅子とか。そしたら座ったり立ったりできるし。取ってくるね。」
「ありがとうございます。」

 スタジオに残されたのは二人。壁にもたれたのは知春だった。カシャッとシャッターが切られた。

「え、今の?」
「宣材写真って笑ってる方が多いですけど、知春さんは笑ってるより今みたいにちょっと目線落とした感じのもいいと思うんです。どうですか?」
「…目線落ちたら顔わかんなくない?」
「それもそうか…。目線じゃない宣材写真っていいんですかね?」
「わかんない。前のやつは適当に撮ったのを誰かが選んでたから。」

 話しながらシャッターを切る。ファインダー越しに目が合うと、その真っ直ぐな眼差しが名桜を射貫く。

「んー…真っ直ぐすぎると怖い感じしません?」
「え、顔怖い、今?」
「目力かな…。」
「目力ってそんなにある?」
「ファインダー越しにばっちり目が合うと、ビクッとしますよ?」
「そっか、カメラ構えてる人の側からすると目が合うのか。」
「はい。」
「こっちはレンズ見てるから、なんか不公平だね。」

 少し不機嫌そうな顔。多分宣材写真には使えないけれど、シャッターは切った。
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