リナリア
 重い響きだと思った。名桜は何も言えなくなった。

「経験していない感情を表現するためには、知識が足りないから…だから俺は、…びびってんのかな。」
「…全然話が見えないのですが…。」
「名桜ってさ、俺が出てたドラマとか観てた?」
「テレビがあってないような家なので…。」
「そっか。前に出てたやつ…多分、それで人気が出たんだと思うんだけど、そこから仕事増えたから。」
「あ、はい。」

 知春が必死に言葉を探している感じがする。いつもより言葉が出てくるのが遅い。

「メインは女性で、その人に想いを寄せるけど叶わないやつの役だったんだよね。」
「…メインヒーローではなく?」
「うん。俺メインのヒーローってやったことないよ。」
「意外です!バリバリ主役はってるのかと…。」
「そんなに甘くないって。俺、ゆーてまだ芸歴1年。」
「そんなものですか?」
「うん。たまたま受かっちゃってそのままみたいな感じだし。演技自体は面白いけど。」
「…面白いって思ってるならいいんですけど…。」

 甘い世界じゃないと知っているからこそ、好きじゃないなら続けてほしいものでもない。

「まさに今の俺の状況がそう、だからさ。」
「…?」
「健気かどうかは知らないけど、絶対に叶わない想いを抱いてて、告白もできない。」

 『健気に想われたいっていうコメントが多かったって聞いてる、あの役。』とポツリと付け足されても、名桜の頭の中はその前に言われたことでいっぱいだった。
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