リナリア
「…気持ちも演技も、全部…知春さんのものです。だから、その、…両想いを知ってから挑みたいっていうならそれでいいと思うし、未知だけどやりたいっていうのなら、それもそれでいいんだと思います。」
「名桜なら…どうする?」
「…私なら…。」

 手も思考も完全に止まってしまった。ここで答えなんて出せそうにない。

「…しばらく、時間をもらってもいいですか?」
「うん。俺もしばらく考えるってことにしてるから。」
「…すみません、気の利いたこと、何一つ言えなくて。」
「いや、むしろいろんなこと聞いて驚いたでしょ。ごめんね、そんな顔させて。」
「…それは、全然。むしろ納得しました。」
「納得?」

 名桜は静かに頷いた。

「リナリアに触れた時の、切なそうな目と、さっきの言い方。空を見上げた時の表情とか、いろいろ、繋がった感じがします。」
「…すごい観察力だよね。知ってたけど。」
「なんでだろう、とは思ってました。でも理由は見当たらなくて。それであの話だったので、とても納得しました。」
「納得したって言われると思わなかった。」
「…すみません。」
「謝ることじゃないでしょ。…すごいよ、名桜は。」
「すごいのは知春さんでしょう?…1年でこんなに出ずっぱりになる人ってなかなかいないですよ。」
「…そんな出ずっぱりの俺の作品観てないんでしょ?」
「…それは、すみません。だから、観てからお答えしようと。」
「え?」

 知春がどれだけの演技力をもっていて、どれだけどんな役にはまるのかは見たことがない。だからこそ、観なければわからないと思う。

「…なので、時間をくださいと言いました。」
「…観る時間ってこと?」
「はい。」

 名桜は力強く頷いた。
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