リナリア
「今までどんな役を演じてこられたのか、知春さんの仕事をちゃんと観ます。」
「…仕事に支障ない範囲にしなよ。名桜だって暇じゃないじゃん。」
「おかげさまで…あの写真のおかげだそうです、仕事が増えたのは。」
「SNS見た?」
「え?」
「あ、今ここでスマホ出しても平気?」
「はい、大丈夫ですよ。」

 取り出されたスマートフォン。ものの30秒ですごい件数が出てくる。

『知春くんの彼氏感すごい~!』
『彼女幸せ者…。』
『ちょっと気が抜けたところもイケメン!』

 あの雑誌の写真はこれ1枚ではなかったはずだが、ほとんどこの一枚で持ちきりだ。

「名桜って自分の仕事はあんまりその後、気にしないタイプ?」
「…そう、ですね。私の手元を離れた段階で、もう他の方のものってイメージがありますね。」
「ま、これから気が向いたら調べてみるといいよ。ちゃんとカメラマンの名前だって載るんだし。」
「…まさかこんなことになっているとは思ってもみませんでした…。」
「でもこれが現実だよ。思っていた以上の反響。これからもっと忙しくなるよ。この前の読者モデルの写真も良かったらしいじゃん。あの雑誌も2ページだけ出してもらったから、そんな話を聞いた。」
「私は私の…やれることをやってるだけです。特別なことはしていないです。」
「うん。名桜にとってはね。でも、ビジネス的にはそうじゃない。名桜との撮影は、楽しいしね。」

 そう言って笑う顔は、年相応に見える。少しだけ幼くて、テレビや雑誌で見る顔とは違う。今カメラを持っていたら、間違いなくシャッターを切っていた。
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