リナリア
「名桜って悩みある?」
「…悩み…、ですか。」
「好きな人とうまくいかない、とか。」

 視線が急に鋭くなった。さっきまで笑っていたのに、高低差がありすぎて名桜は面食らった。

「好きな人なんて、いませんよ。」

(ふぅん、そうくるんだ?)

 知春は名桜をもう一度見つめた。

「な、なんですか?信じてないんですか?」
「女子高生は恋するもんじゃないの?」
「それを言ったら、男子高校生だって恋をするものでは?」
「してるってば。」
「…そうでした。」
「名桜は?好きな人、いないの?」
「いません。…私には、そういうの、関係ないものです。」
「どうして?」
「人を好きになる、ということがどういうことかわからないです。…だから、誰かを好きだとはっきり思ったり、言えたりするのはすごいです、とても。」

(理解としてわかってないだけで、…ちゃんと好きな人いるのに。)

 それを知春が言うことはきっと、ルール違反なのだろう。それこそ自分で気付いて初めてそれは『恋』と呼べるものになる。

「名桜もするでしょ、恋。」
「…そうですかね…。このままカメラに一生を捧げてしまいそうですが…。」
「そんなことないでしょ。カメラは相棒じゃん。」
「恋愛も、相棒になるんじゃないんですか?」
「あー…そうか、そうかもね。でもその感覚、今の俺にはわかんないし。」
「それを言ったら私もですよ。」
「でも、俺、教えたし。名桜もできたら教えてね。」
「え?」

 知春は少し口角を上げて笑った。
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