リナリア
「笑おうとすると変な顔になるよね、名桜って。」
「…笑うのって難しいんですよ。」
「でも、普通に笑ってるよ、ちゃんと。カメラ持ってるときとか、さっきも。」
「さっき?」
「写真作ってるときって言えばいいのかな。そのときも、笑えてるよ。」
「…そのくらいしか、笑ってないんですね、私。」
「いや、他の名桜を知らないからわかんないけど、でもそれはいい顔だと思うけど。それこそ、名桜の言う残したい一瞬だよ。」
「ありがとう、ございます…。なんか、慰めてもらっちゃって…。」

 名桜がそう言うと、知春は笑った。

「慰めたんじゃなくて、本当のこと言っただけ。好きなことしてるときの顔はかっこいいし、可愛い。」
「…かっこいい、ってのはわかりますが、可愛いっていうのはちょっとわからないですね。」
「いいの撮れたんだなって、わかるよ。そういう顔のとき。」

 『自分じゃわからないって』と付け足されるが、それでも少し腑に落ちない。そんな名桜の表情を察したのか、知春は口を開いた。

「きっと好きな人の前ではもっと可愛い顔してるんだって。」
「…いれば、の話です。」
「できれば、の話とも言えるよ。」
「それも、そうですね。」

 名桜は作業に戻ることにした。一時中断してしまったが、今日のノルマはまだまだ終わっていない。

「…そういう顔。」
「どういう顔かわかりません。」
「じゃあシャッター切っていいの?」
「それはだめです!」
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