リナリア
雨で濡れた涙
* * *

 6月になった。中旬といえば完全に梅雨で、気圧の変動に弱い名桜に頭痛薬は欠かせない。今日も窓を叩く雨はなかなかに強い。しかし、雨に濡れたものや人の姿を撮りたいという気持ちも強くなっていた。

「なーお!」
「おはよ…。」
「顔暗い上に怖いって何事よ…。」
「梅雨のせい…。」
「あぁ、名桜って雨、だめだよね…。」
「うん…。」
「大丈夫か?」
「…うん。」
「きついんなら保健室行ったほうがいいぞ?」
「ありがとう…。でも、そこまでじゃないから。」

 ポンと乗った、蒼の大きな手。それが無造作に名桜の黒髪を撫でる。

「…髪までぐしゃぐしゃになった…頭の中身もガンガンするのに。」
「よくなるよーにって思いは込めておいた。」
「…それ、本当かなぁ。」

 目が合えば蒼がニッと笑う。それにつられて、名桜も笑った。

「相変わらず忙しそうだな。仕事のしすぎじゃねーの?」
「それもなくはない、けど。」
「あと最近頑張って観てるんだもんね。伊月知春のドラマ。昨日最新話だったじゃん?」
「…観たよ。なんかまた言えなかったね、告白。」
「しっかしああいう役が妙にはまるんだよね、伊月知春。前のドラマで大ブレイクでしょ?」
「うん。」

 ブレイクしたと言われる前のドラマをようやく観終えた。知春の話や想いを知った後だとなおさら精神的にくる映像だった。一言で言えば、『儚かった』。表情のひとつひとつが浮かんではすぐに消えていき、それでいて綺麗だった。
 最新のドラマでは、メインのカップルの彼女の幼馴染役だった。メインのカップルがくっついたことによって、告白しようと思っていた『彼』は止まってしまった。

「昨日のツイッターのタイムライン、『海くん』だもんね。」

 海というのは知春の役名だ。カップルがくっついたことよりも、その幼馴染がトレンドになるとはいかがなものか。
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