リナリア
* * *

「頭、治ったか?」
「…何かその言い方、私が頭悪いみたい。」
「いや、そういう意味じゃねーけど。」
「知ってるよ。治ってはないけど、仕事に支障はないと思う。ありがとね、心配してくれて。」

 蒼がぐっと握った拳を名桜の頭の上にポンと置いた。

「心配くらいしかできないから。」
「それが力になってるし。七海と蒼がいるから写真続けてるようなものだよ。」
「…そっか。」
「名桜、帰りも気をつけてね。帰ったらお風呂入ってゆっくり寝ること!」
「うん。七海もありがとう。じゃ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
「おぅ。」

* * *

(…蒼は本当、昔からわかりやすいなぁ。)

 不器用だけど、真っ直ぐな優しさならきっと自分の方がよく知っている。その優しさが、名桜に向けられるように自分に向けられることはないけれど、と七海は一人、心の中で呟いた。

「この雨じゃ部活、休みなんじゃない?」
「うん。七海は?」
「私も今日は部活休み。」
「んじゃ、一緒に帰るか。何か食ってく?」
「甘い物がいいな。」
「いいよ、りょーかい。」

(優しいんだよね、ほんと。変わんない。昔から。)

 変わらない。ずっと一緒にいたからこそわかる。幼馴染という距離でしか一緒にいられないことも。何もかも変わらない。どれだけ話そうが、どれだけ隣にいようが、その手が繋がれることはない。
 蒼が手を繋ぎたい相手は、自分じゃないから。
< 43 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop