リナリア
(…知春さんも、きっと好きな人の指輪を見たんだろうな…。)
も、と思ってハッとする。知春も、ということは自分にとっての『好きな人』が安田であることになる。名桜はぶんぶんと頭を振った。そんなはずはない。
「違う…私に…好きな人なんて、いない。」
ここから一歩踏み出せば、たちまちずぶ濡れになる。傘はあるのにそれをさす気にはなれない。初めての感覚だった。目の下がじわじわと熱くなってくる。悔しいとか悲しいとか、そういう感情ではないのに。
瞬きをしたら最後だと思った。だからこそ、そのまま一歩を踏み出す。
ざあざあと打ち付ける雨の音が今は純粋にありがたかった。心臓の音はきっと、誰にも聞こえない。瞬きをした瞬間に落ちた水分は雨だと言える。頭はひどく痛くて、呼吸が落ち着かなくて、それも全て朝から続いていた気圧による体調不良だと言える。
(…なにやってるんだろう、私。)
防水の鞄でよかった。中に入っている制服は守られているはずだ。カメラは厳重にもう一枚袋に包まれているから被害はない。そんなことを冷静に思えるのに、瞬きをすると浮かぶのはあの指輪と照れた表情だけで。
またしても流れていく水。雨が強すぎる。
名桜はずぶ濡れのまま、自宅マンションの近くの公園にたどり着いた。ベンチに座って、真っ暗な空を見上げた。
も、と思ってハッとする。知春も、ということは自分にとっての『好きな人』が安田であることになる。名桜はぶんぶんと頭を振った。そんなはずはない。
「違う…私に…好きな人なんて、いない。」
ここから一歩踏み出せば、たちまちずぶ濡れになる。傘はあるのにそれをさす気にはなれない。初めての感覚だった。目の下がじわじわと熱くなってくる。悔しいとか悲しいとか、そういう感情ではないのに。
瞬きをしたら最後だと思った。だからこそ、そのまま一歩を踏み出す。
ざあざあと打ち付ける雨の音が今は純粋にありがたかった。心臓の音はきっと、誰にも聞こえない。瞬きをした瞬間に落ちた水分は雨だと言える。頭はひどく痛くて、呼吸が落ち着かなくて、それも全て朝から続いていた気圧による体調不良だと言える。
(…なにやってるんだろう、私。)
防水の鞄でよかった。中に入っている制服は守られているはずだ。カメラは厳重にもう一枚袋に包まれているから被害はない。そんなことを冷静に思えるのに、瞬きをすると浮かぶのはあの指輪と照れた表情だけで。
またしても流れていく水。雨が強すぎる。
名桜はずぶ濡れのまま、自宅マンションの近くの公園にたどり着いた。ベンチに座って、真っ暗な空を見上げた。