リナリア
「後半の撮影、開始します。」
「はい。あれ?彼女が撮るんじゃ…。」
「ある意味あの子がメインです。何考えてるかわからないですけど。でも目線は私にお願いできますか?どうやらどうしても撮りたいあなたの表情があるみたいです。」
「表情…?」
「あんまり難しく考えず、楽しくやりましょう。前半みたく。」
「はい。」
名桜は知春の右斜め前にポジションをとった。
(…正面も綺麗だけど、私としては絶対斜めからがいいと思うな。)
そんなことを思いながらシャッターを切る。顔の造形の良さがより際立つように、写真というフレームの中に収めていきたい。
「んー…もう結構いい枚数撮ったかな。ちょっと待ってね。」
「はい。」
一度カメラのデータを確認するために、下がった父。カメラを下ろさないで立ったままの名桜と知春の目が、ファインダー越しに合う。
(…この目じゃ、ないんだよ、まだ。)
「うん。データ的にも構図的にもオッケーだね。お疲れ様。」
カシャッ…
「え?」
撮影が終わったはずなのに、一度だけ切られたシャッター。その音がいつもよりやけに響く。
名桜はすぐにデータを確認する。画面に映し出されたのは、欲しかったものだ。
「うん。これ。」
目の力が少しだけ緩んで、優しくなって。完璧さが少しだけ崩れて、身近な人みたいな雰囲気になって。これをどうしても収めたかった。
「名桜、いいの撮れたか?」
「うん!」
表情の乏しい名桜が、唯一笑顔になるのはこのときだった。満足のいく写真が撮れたとき。
「じゃあこれも入れていいですか?」
名桜のデータを受け取ってから、父がマネージャーに尋ねる。
「はい。お願いします。」
「使ってもらえるといいな、名桜。」
「…いい写真だと思うんだけどな。」
「見せてもらってもいいですか?」
「もちろん。」
名桜の後ろにすっと現れた知春。パソコンの画面に映し出されたのは、名桜の一枚。
名桜はおそるおそる後ろを振り返り、顔を見上げた。
「…僕もまだまだ、プロじゃないですね。」
「気に入りませんでしたか?」
「完全にやられた、って感じです。一瞬を逃さないんですね。」
そう言って笑った顔は演技じゃないような気がして、名桜の心臓がドクンと鳴る。
(…うまくいった…ってことでいいんだよね?)
「はい。あれ?彼女が撮るんじゃ…。」
「ある意味あの子がメインです。何考えてるかわからないですけど。でも目線は私にお願いできますか?どうやらどうしても撮りたいあなたの表情があるみたいです。」
「表情…?」
「あんまり難しく考えず、楽しくやりましょう。前半みたく。」
「はい。」
名桜は知春の右斜め前にポジションをとった。
(…正面も綺麗だけど、私としては絶対斜めからがいいと思うな。)
そんなことを思いながらシャッターを切る。顔の造形の良さがより際立つように、写真というフレームの中に収めていきたい。
「んー…もう結構いい枚数撮ったかな。ちょっと待ってね。」
「はい。」
一度カメラのデータを確認するために、下がった父。カメラを下ろさないで立ったままの名桜と知春の目が、ファインダー越しに合う。
(…この目じゃ、ないんだよ、まだ。)
「うん。データ的にも構図的にもオッケーだね。お疲れ様。」
カシャッ…
「え?」
撮影が終わったはずなのに、一度だけ切られたシャッター。その音がいつもよりやけに響く。
名桜はすぐにデータを確認する。画面に映し出されたのは、欲しかったものだ。
「うん。これ。」
目の力が少しだけ緩んで、優しくなって。完璧さが少しだけ崩れて、身近な人みたいな雰囲気になって。これをどうしても収めたかった。
「名桜、いいの撮れたか?」
「うん!」
表情の乏しい名桜が、唯一笑顔になるのはこのときだった。満足のいく写真が撮れたとき。
「じゃあこれも入れていいですか?」
名桜のデータを受け取ってから、父がマネージャーに尋ねる。
「はい。お願いします。」
「使ってもらえるといいな、名桜。」
「…いい写真だと思うんだけどな。」
「見せてもらってもいいですか?」
「もちろん。」
名桜の後ろにすっと現れた知春。パソコンの画面に映し出されたのは、名桜の一枚。
名桜はおそるおそる後ろを振り返り、顔を見上げた。
「…僕もまだまだ、プロじゃないですね。」
「気に入りませんでしたか?」
「完全にやられた、って感じです。一瞬を逃さないんですね。」
そう言って笑った顔は演技じゃないような気がして、名桜の心臓がドクンと鳴る。
(…うまくいった…ってことでいいんだよね?)