リナリア
名桜のやや長い黒髪はなかなか乾かなかったが、やっとのことで乾かし終えて、リビングに戻る。脱水も終わったので、洗濯機から服を取り出した。
「知春さん。」
「んー?」
「これ、どこか干してもいいですか?」
「うん。貸して?」
ハンガーにかけ、室内に干す。空気清浄機のおかげなのか、部屋の中はそれほど湿度が高くはない。
「ありがとう、ございます。手慣れてるんですね。」
「まぁ、一人暮らしだから。それよりなんか飲む?…って言ってもそんなに種類はないけど。」
「あったかいもの、ありますか?」
「コーヒーはこの時間はだめじゃん?んー…ココア?」
「ココア、いただきます。」
「ちょっと待ってて。」
至れり尽くせりで申し訳ない気もするが、何も聞かずに帰してくれるとも思っていない。ここは話す準備をした方がよさそうだ。名桜はカーペットの上に座った。
「お湯沸かしててよかった。はい。」
「ありがとうございます、何から何まで。」
「全然。一応火傷、気をつけて。」
「はい。」
少しだけ息を吹きかけて冷まし、一口飲む。ココアなんて久しぶりに飲んだ。疲れていたのか、とても美味しく感じる。
「お父さんに連絡する?」
「今日、父は出張です。帰ってきません。」
「じゃあ尚更、声掛けてよかった。」
知春がほっと息をはく。ここで『お母さんは?』と聞かないあたり、大体の事情は知っているのだろう。それなりに父は有名人だ。妻がもう亡くなっていることも割と知られた話である。
知春はそれ以上何も言わず、ソファーに置いていた台本を開いた。ただ、時計の針の音だけが響く。
「知春さん。」
「んー?」
「これ、どこか干してもいいですか?」
「うん。貸して?」
ハンガーにかけ、室内に干す。空気清浄機のおかげなのか、部屋の中はそれほど湿度が高くはない。
「ありがとう、ございます。手慣れてるんですね。」
「まぁ、一人暮らしだから。それよりなんか飲む?…って言ってもそんなに種類はないけど。」
「あったかいもの、ありますか?」
「コーヒーはこの時間はだめじゃん?んー…ココア?」
「ココア、いただきます。」
「ちょっと待ってて。」
至れり尽くせりで申し訳ない気もするが、何も聞かずに帰してくれるとも思っていない。ここは話す準備をした方がよさそうだ。名桜はカーペットの上に座った。
「お湯沸かしててよかった。はい。」
「ありがとうございます、何から何まで。」
「全然。一応火傷、気をつけて。」
「はい。」
少しだけ息を吹きかけて冷まし、一口飲む。ココアなんて久しぶりに飲んだ。疲れていたのか、とても美味しく感じる。
「お父さんに連絡する?」
「今日、父は出張です。帰ってきません。」
「じゃあ尚更、声掛けてよかった。」
知春がほっと息をはく。ここで『お母さんは?』と聞かないあたり、大体の事情は知っているのだろう。それなりに父は有名人だ。妻がもう亡くなっていることも割と知られた話である。
知春はそれ以上何も言わず、ソファーに置いていた台本を開いた。ただ、時計の針の音だけが響く。