リナリア
沈黙を破ったのは、名桜の方だった。
「…何も、聞かないんですか?」
知春が気付いていないはずがない。知春はゆっくりと台本を閉じた。
「聞いた方がいいなら聞くし、言いたくないなら何も聞かないよ。名桜はどっちがいい?」
「……。」
名桜は何も言えなくなってしまった。
「明日の仕事は何時から?」
「午後です。お昼過ぎから。」
「じゃあ目は何とかなるかもね。シャワーであっためたから、冷やしておく?」
「…その方が、腫れは収まりますか?」
「俺は泣いた後、あっためたり冷やしたりするのを繰り返すけど。」
「じゃあ、冷やしてきます。」
「タオル濡らすよ。」
「…ありがとう、ございます。」
すっと立ち、小さめのタオルを濡らしてきてくれる。それを目に当てると、またあの痛みが戻ってくる気がした。
喉の奥が痛くて、それを飲み込まなければきっと目から流れ出てしまう。
「ずっと目が合わないのは、俺に何か聞かれると思ってるから?」
その通りだ。知春に嘘はつけなくて、名桜は静かに頷いた。
「…名桜が目を合わせてくれないのなんて初めてじゃん。」
「…どのみち、すぐ気付く人ですよね、知春さん。」
「あれだけ真っ直ぐ相手を見て仕事する人が目を逸らしてたら、俺じゃなくても気付くよ。」
「…ごめんなさい、ちゃんと、目を見て話せなくて。」
「いいよ。緊急事態でしょ。」
名桜の頭に乗った、大きな手。綺麗な顔が、優しく微笑んでいる。タオルを外して最初に飛び込んできたその表情に、涙がこみ上げてくる。瞬きをすると、涙は両目から零れ落ちた。
ソファーからおりて名桜と同じ高さに座った知春は、名桜の頭の上に乗せた手をゆっくりと後ろに落とし、そのまま名桜を抱き寄せた。
「…何も、聞かないんですか?」
知春が気付いていないはずがない。知春はゆっくりと台本を閉じた。
「聞いた方がいいなら聞くし、言いたくないなら何も聞かないよ。名桜はどっちがいい?」
「……。」
名桜は何も言えなくなってしまった。
「明日の仕事は何時から?」
「午後です。お昼過ぎから。」
「じゃあ目は何とかなるかもね。シャワーであっためたから、冷やしておく?」
「…その方が、腫れは収まりますか?」
「俺は泣いた後、あっためたり冷やしたりするのを繰り返すけど。」
「じゃあ、冷やしてきます。」
「タオル濡らすよ。」
「…ありがとう、ございます。」
すっと立ち、小さめのタオルを濡らしてきてくれる。それを目に当てると、またあの痛みが戻ってくる気がした。
喉の奥が痛くて、それを飲み込まなければきっと目から流れ出てしまう。
「ずっと目が合わないのは、俺に何か聞かれると思ってるから?」
その通りだ。知春に嘘はつけなくて、名桜は静かに頷いた。
「…名桜が目を合わせてくれないのなんて初めてじゃん。」
「…どのみち、すぐ気付く人ですよね、知春さん。」
「あれだけ真っ直ぐ相手を見て仕事する人が目を逸らしてたら、俺じゃなくても気付くよ。」
「…ごめんなさい、ちゃんと、目を見て話せなくて。」
「いいよ。緊急事態でしょ。」
名桜の頭に乗った、大きな手。綺麗な顔が、優しく微笑んでいる。タオルを外して最初に飛び込んできたその表情に、涙がこみ上げてくる。瞬きをすると、涙は両目から零れ落ちた。
ソファーからおりて名桜と同じ高さに座った知春は、名桜の頭の上に乗せた手をゆっくりと後ろに落とし、そのまま名桜を抱き寄せた。