リナリア
シャツを掴んでいたはずの手の力が緩んだと思ったら、寝息が聞こえてきた。知春はゆっくりと腕の力を緩め、顔を覗き込んだ。すると泣きつかれた名桜の目からすうっと涙が零れていった。その目に触れると、やや熱をもっている。
「…あれだけ泣いたら、そうか。」
シャツは思っていたよりも濡れていた。まだ少し残る涙を指で拭う。起こさないように、気をつけながら。そして、ゆっくりと抱き起こして、自分のベッドまで運ぶことにする。静かにベッドの上に下ろしても、名桜は起きる気配がなかった。雨に打たれて、散々泣けば、体力がある程度ある人だって疲れる。その上精神的にもダメージを受けていたのだからもう限界だったのだろう。
あどけない寝顔。仕事で会えば年不相応なのはお互い様だと、知春は思っている。だからこそ、年相応な表情に自然と安心してしまう。名桜と仕事をしたり、話をしたりするのが心地いいのはきっとそこに理由がある。
「…明日の目は、腫れちゃってるな、多分。」
熱をもったままの目に、再び触れた。リビングに戻り、濡れタオルをあててみる。それでも起きはしない。
「早く元気になって、また仕事しよう。」
自分にも言い聞かせた言葉だった。名桜ほどではないにしても、自分ももうすぐ同じような気持ちになる。その日は決して遠くない。泣きたくなったら、名桜に傍にいてほしい。そんなことを思いながら、名桜の寝顔を見つめた。
泣いても、叶わなくても、辛くても、名桜の想いは、紛れもなく『恋』でしかなくて。そして自分の想いもそうであると改めて思う。そんなに苦しくても想うことをやめないのは、それが『恋』だからなのだろう。一つの想いにたくさんの感情が鎖のように繋がっている。不確かで、脆くて、よくわからないもの。いつか、反対側の気持ちも知る日がくるのだろうかとぼんやり考え、知春は目を閉じた。
「…あれだけ泣いたら、そうか。」
シャツは思っていたよりも濡れていた。まだ少し残る涙を指で拭う。起こさないように、気をつけながら。そして、ゆっくりと抱き起こして、自分のベッドまで運ぶことにする。静かにベッドの上に下ろしても、名桜は起きる気配がなかった。雨に打たれて、散々泣けば、体力がある程度ある人だって疲れる。その上精神的にもダメージを受けていたのだからもう限界だったのだろう。
あどけない寝顔。仕事で会えば年不相応なのはお互い様だと、知春は思っている。だからこそ、年相応な表情に自然と安心してしまう。名桜と仕事をしたり、話をしたりするのが心地いいのはきっとそこに理由がある。
「…明日の目は、腫れちゃってるな、多分。」
熱をもったままの目に、再び触れた。リビングに戻り、濡れタオルをあててみる。それでも起きはしない。
「早く元気になって、また仕事しよう。」
自分にも言い聞かせた言葉だった。名桜ほどではないにしても、自分ももうすぐ同じような気持ちになる。その日は決して遠くない。泣きたくなったら、名桜に傍にいてほしい。そんなことを思いながら、名桜の寝顔を見つめた。
泣いても、叶わなくても、辛くても、名桜の想いは、紛れもなく『恋』でしかなくて。そして自分の想いもそうであると改めて思う。そんなに苦しくても想うことをやめないのは、それが『恋』だからなのだろう。一つの想いにたくさんの感情が鎖のように繋がっている。不確かで、脆くて、よくわからないもの。いつか、反対側の気持ちも知る日がくるのだろうかとぼんやり考え、知春は目を閉じた。