リナリア
* * *

 目覚めたら7時半だった。知らないベッドに困惑するのと同時に目が痛くて、鏡を見るのが怖くなった。むくりと起き上がった瞬間に、知春の所在が気になり、名桜はベッドを飛び出した。

「…ソファーで寝かせてしまったんですね…。」

 ソファーで眠る、綺麗な顔。寝ていても崩れないのは、とてもずるいと名桜は思う。自分が昨夜どんな顔をさらして眠ってしまったかなんて考えたくもない。泣いて、寝落ちて、おそらくは運んでもらって、人様のベッドを占領して一夜を過ごすなんて非常識すぎる。せめてものお返しに朝食でも作ろうかと、申し訳ないと思いつつ冷蔵庫を開けると飲み物しかなく、名桜はキッチンをうろついてしまう。

「…なお…?」
「…!起こしましたか?」
「いや、勝手に起きたけど、キッチンうろついててびっくりした。」
「昨日、すみませんでした。ベッドもお借りしてしまって…。」
「ううん。よく眠れた?」
「はい。ありがとうございました。」
「目は、やっぱり腫れちゃったね。」
「それは…仕方ないです。仕事までにはありとあらゆる手を使って戻します。」
「うん。」
「それより朝ご飯ですよ。何食べたいですか?」
「食べるもの、入ってた?」
「いいえ。買い出しからしてきます。コンビニで揃いそうなもので作れそうなもの…なんだろう。卵は手に入りますけど。野菜も高いけど手には入りますね。」
「…もう、いつもの名桜だね。」
「おかげさまで。すっきりしました。完全にではないですけど、かなりマシになりました。」
「…よかった。笑えてる。」

 そう言った知春の方が笑顔が様になっている。少し悔しいと思いながらも、名桜は笑顔を返した。
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