リナリア
名前のない関係性
* * *

「なぁ、知春。」
「なに?」

 拓実(たくみ)が目の前に広げたのは、雑誌だった。そこには上原がいた。

「あー、和(かず)さんじゃん。」

 ふと、雑誌の下に書かれているカメラマンの名前を確認するとそこには『麻倉名桜』とある。

「名桜の写真か。」
「あー、そのカメラマンちゃんのことはよくて、この人。上原和久(うえはらかずひさ)ってどんな人?」
「?なんでそんなこと聞くの?」
「最近ねーちゃんがこいつのこと好きすぎてうぜぇから。なんか変な話でもぶつけてやろうかと。」
「和さんの変なとこか…。」

 上原はいい人である。それこそ主役として一つの作品をまとめようとするリーダー性のようなものが備わっている。彼のいる場所に人は集まるし、彼の放つパワーと明るさはいつだって眩しい。

「たくが欲しいようなネタはないと思うよ?普通にめちゃくちゃいい人だから。」
「んだよー…。お、椋花(りょうか)おはよ。」
「おはよ。あ、珍しい。知春が朝からいる。」

 椋花のゆるい天然パーマの長い髪が揺れた。知春の隣の席に腰掛けると、鞄を開いて朝の準備をする。

「この際椋花の意見でいいや、ぶっちゃけこの男、女の目から見てどう?」
「…芸能人、キョーミない。」
「俺も芸能人なんだけど、一応。」
「知春は芸能人っていうより中学からの友達じゃん。」
「まぁ、そうだね。」
「はー…お前ら全然参考にならねー。」
「たくもモデルの仕事やればいいじゃん。」
「読者モデルやってたのなんて結構前じゃね?」

 小島拓実(こじまたくみ)は高校からの知春の友人であり、高杉椋花(たかすぎりょうか)は中学からの友人である。ちなみに、拓実とは高校2年の時にモデルのオーディションを一緒に受けた仲でもある。
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