リナリア
* * *

 知春は午前で帰ってしまった。そのため、昼食は拓実と椋花で食べる。割といつもの光景だ。

「なぁ。」
「なに?」
「朝の知春、気になんなかった?」
「どういう意味?」

 椋花は箸を止めた。

「知春の好きな人。」

 椋花はわかりやすく表情を歪めた。

(…そんな顔されなくったって、わかってるっつの。)

 椋花がおそらくは中学時代から、つまりは知春が芸能人となる前から知春に想いを寄せているということ。拓実は高校からの付き合いだけれど、そんなことは見ていればわかった。知春と仲が良いということで、女友達はあまりできなかったようだ。それでも、椋花にとっては知春といることを選びたいくらいには大事な友人であり、その先の感情をもつのは自然なことだったのだろう。

「麻倉名桜、見に行ってみる?」
「…拓実ってそういうところあるよね。」
「ん?」
「お節介というか、野次馬というか…。」
「いやーだって気にならないって言ったら嘘になるし。」
「正直で何より。」

 素直じゃない。だから友達以上に進めない。そんな椋花を、拓実は2年以上見てきた。幸せになってほしい気もするし、恋に破れて自分のところにくればいいのに、と思ってしまう気持ちも嘘じゃない。正直になれないのなんてお互い様だ。

「あんまり変なこと、しないでよね。」
「迷惑かけるようなことはしないよ。」
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