リナリア
* * *

「名桜、先輩が呼んでるよ?」
「…先輩?」

 写真部にも先輩はいるが、写真部は基本的に個人の活動のため、こんな風に呼び出されることはまずない。廊下に出ると見たこともない人が立っていた。

「…?あの、どちら様でしょうか?」
「知春の友人代表です。」

 そう言ってぺこりと頭を下げた後、にかっと笑う。

「小島拓実です。」
「あ、はい。麻倉名桜です。」
「本当に普通の子なんだね。」
「はい…なんか、期待外れでしたかね。」

 拓実の落ちたトーンに申し訳なさすら感じて、名桜は頭を下げた。

「あー違う違う。知春が仕事っぷりをあまりにも気にしてる子だったから、知春の好きなやつって名桜ちゃんじゃないかなって思って見に来たんだけど。」
「仕事ぶりを評価することとって恋愛って別物だと思うんですけど…。」

 そもそも知春の好きなひとが自分であるはずがない。

「…あの、知春さんがそんなこと言うはずないですよね?」
「好きなやつはいる、と思う。」
「思う?」

 あの知春が誰かに好きな相手がいる、などと言うとは思えなかった。拓実の反応がおそらく、の範囲を出ていない以上、名桜の方から色々言うわけにもいかない。

「でも、名桜ちゃんじゃないんだ?」
「間違いなく、私ではありません。」
「どうして?」
「知春さんと私は、そういう関係じゃないからです。」

 間違いなく、そう言える。
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