リナリア
『とりあえず、学校で理由なく名桜に関わんのやめて。』
『はーい。』

 気の抜けたスタンプが一つ、送られてきた。

(…俺にも落ち度はあるけどさ…。ちゃんと否定しておけばよかった。)

 こんなことになるなら、と心の中で付け足しておく。想う相手などいないと言えば良かっただけのことだった。しかし、二人に嘘をつくことはしたくなかった。ただ、名桜に迷惑をかけるつもりもなかった。

(…きっと、めちゃくちゃ困った顔したんだろうな…。)

 困る名桜の顔が思い浮かぶ。きっと、とても困った顔をして、それでも言葉を選びながら話をしてくれたのだろう。
 最寄り駅に着いた。そこからは少し歩く。夜風が気持ちいい、とは言えない。

(さすがに起きてると思う…んだけど。)

 22時にはなっていない。知春は通話のアイコンをタップした。しばらく掛けたけれど、出る気配はない。

(仕事…か?)

 カメラマンの仕事の忙しさがどの程度なのかは知らないし、名桜の仕事も完全に把握しているわけではない。ただ、この2ヶ月かそこらで名桜の撮った写真を見る機会は増えた。マネージャーが名桜の写真を気に入ってやたらと雑誌を持ってくるのも理由の一つだ。それに、別の現場でモデルが話しているのを耳にすることもある。モデルたちにも好評のようだ。特に読者モデルの子たちにとって名桜は年齢も近い、もしくは下ということもあり、気さくな感じがするのだろう。
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