リナリア
 ポケットに入れたスマートフォンが震えた。名桜からの着信だ。

「もしもし。」
「すみません、出れなくて。お風呂入ってました!」
「あ、ごめん。髪乾かしてきていいよ?」
「長いからしばらくタオルでごしごしやるので、…大丈夫です。それよりどうかしました?」
「今日はたくがごめん。変なこと言ったでしょ?」

 しばしの間ができる。

「あ…あー…えっと、小島さんか。小島拓実さん。」
「そう。たくが余計なこと言いに行ったよね?」
「余計というか…。知春さんとどういう関係かと訊かれましたね。」

 またしても大きなため息が出てしまう。

「余計なことは、何も言ってません。」
「そういう意味で電話したんじゃないよ。信用してる。だから名桜にしか言ってない。」
「…多分言ってないんだろうなとは…思いました。だから、知春さんが私をどう思ってるかなんて知りませんと言いました。」
「…ごめんね、嫌な思いさせて。」

 声のトーンが落ちてしまう。余計なことに巻き込んでしまった。拓実が勝手にしたことだけれど。

「いえ。それより、深く追究されなくてよかったです。」
「え?」
「結局のところは知春さんに聞かなきゃわかんないってところに落ち着いたので。」
「たくらしいね。」
「そうなんですね。明るくて元気で、なんというか、常に一直線な感じがしました。」
「大体合ってる。」

 夜道を歩く足が軽快になる。名桜の声は困ってなどいなかった。そのことを知っただけで、心も電車の中にいたときよりずっと軽い。

「ところで。」
「はい?」
「名桜は何て答えたの?」
「何の話ですか?」
「どういう関係かって訊かれて。」
「…それ、言わなきゃダメですか?」
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