リナリア
* * *

「…終わった…。」

 式と披露宴の写真を撮り終えて、スタッフにカメラを渡した。これを披露宴の終わりまでに編集して、最後に流すのだそうだ。結婚式場のスタッフの仕事があまりに多岐に渡りすぎていて心配になる。
 カメラが手元になくなった名桜は、別のスペースに用意された食事に手をつけることにする。慣れない緊張感もあってへとへとだった。座ると足にじんじんと痛みを感じた。緊張感や使命感は時折身体を麻痺させる。
 ぱくぱくといつものペース(仕事用)で食べていると、ドアが開いた。

「お疲れ様。ありがとう。」
「もご!ちは…知春さん!」
「あ、ゆっくり食べてていいよ。座る暇もなかったでしょ?」

 名桜は口に入れていたものをごくんと飲み干した。隣に置いてあったノンアルコールのスパークリングワインに手を伸ばした。

「…すみません、見苦しくて。」
「全然?むしろオールミッション、コンプリートでしょ。」
「慣れない場所で、慣れない撮影の空間…私には課題が多すぎました。大丈夫だったか心配です…。」
「さっきちょこっと見せてもらったけど、よく撮れてたよ。二人とも喜ぶと思う。」
「…ありがとう、ございます。」

 名桜は小さく頭を下げた。顔を上げると、優しく微笑む知春と目が合った。

「あの、知春さん。」
「ん?」
「…もしかして、疲れてますか?」
「え?」
「なんだか、…いつもと違って見えた、ので…。」

 名桜がそう言うと、知春は頭をかいた。

「…さすがだね。ほんと、名桜に隠し事できなくて困る。」
「こ、困らせてしまいましたか!すみません!」
「あのさ。」
「はい!」
「…この後の二次会、途中で抜けてくるから、教会の裏手さ、庭みたいなとこあったじゃん。そこに来てくれない?」
「いいですけど…。」
「んじゃ、とりあえず最後の仕事、頑張ってくる。」
「…?」

 その言葉の意味がわからなくて首を傾げた名桜を残し、知春は部屋を後にした。
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