リナリア
* * *

 短時間でよくまとめられたスライドショーを、名桜は披露宴会場の隅で眺めていた。自分が撮った写真が別の人の手に渡って、こんなにすぐに形になったものを見ることは今までになかったので、不思議な体験だった。

(…幸せを凝縮したみたい…。)

 どの表情も満たされているからこそ、そんな風に笑える。少なくとも名桜にはそう見えた。二人の結婚を祝福してくれる人たちも幸せそうだ。
 スライドショーが終わり、名桜は新郎と新婦に挨拶をして外に出た。熱気が充満する空間から離れると、脳に酸素が回る心地がした。知春に指定された場所に、誰もいないことはわかっていても先に向かうことにする。結婚式場という空間の撮影を練習することにする。もしかしたら、今後の撮影でこういう場所を使うことになるかもしれない。

(割とどこを切り取っても絵になるからすごいなぁ…。どうやって考えられてるんだろう…?)

 そんなことを思いながら周囲を見回し、シャッターを切る。

「どんなとこでもシャッター切ってるね、名桜は。」
「知春さん!」

 慌ててカメラから手を離した。知春は笑っていた。

「はー…もうしばらく分知らない人と写真撮った。」
「そりゃあ、今をときめく俳優さんとは写真撮りたいですよ。」
「メインは深冬たちのはずなんだけどな。」
「弟さんが芸能人だったら話はちょっと別だと思います。」

 名桜の言葉に小さく笑う知春。その流れはいつもと変わらないはずなのに、笑顔がすぐに消えてしまったことはイレギュラーだった。
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