リナリア
* * *
結婚式の裏側で、こんな風に涙する人がいるなんてきっと今日出席している誰もが思っていないだろう。少なくとも式場にいる間、完璧な笑顔で快く撮影に応じ、素敵な弟として立ち振る舞っていた。それに、言葉を借りるのならば大幅に崩してしまったのは名桜の方だった。知春の胸で大泣きしたことは今思い出しても恥ずかしい。
「はー…かっこわる…。」
「そんなことないです。オールミッションコンプリートです。ミッション後なんですから、どんな顔でも大丈夫ですよ。」
「とりあえず、泣き止みたい。」
「明日お仕事ですか?」
「うん。明日オーディション。」
「え?」
「前言ってたやつ。少女漫画原作のヒーロー役。」
「…すごいタイミングですね。」
「ね。明日うまいこと笑えるかな。」
「難しいかもしれないですけど、でも仕事ってスイッチ入れたら、知春さんは大丈夫な気がします。」
「…ちょっとさ、名桜に頼み事、していい?」
「はい、何でも。」
あの日、救われたのは知春がいてくれたからだった。だからこそ、今はちゃんと返したい。知春がゆっくりと肩から顔を上げた。片足2歩分の距離ができる。
「カメラ、置いて?」
「はい。」
「両手広げて?」
「こう、ですか?」
「うん。そのまま、抱きしめて。」
すっと近付いた距離。そのまま背中にそっと手を回した。
「…もうちょい、力入れれる?」
「こ、こうです、か?」
「うん。」
肩に感じた負荷。疲れと痛みが混ざった重さに、名桜の胸の奥も軋んだ。名桜が力を入れ直すと、それに合わせるように知春の腕が名桜の背中に回った。
「…わがまま、叶えてくれてありがとう。」
「…明日のオーディション、頑張れるように念、送っておきます。」
「はは、ありがと。」
結婚式の裏側で、こんな風に涙する人がいるなんてきっと今日出席している誰もが思っていないだろう。少なくとも式場にいる間、完璧な笑顔で快く撮影に応じ、素敵な弟として立ち振る舞っていた。それに、言葉を借りるのならば大幅に崩してしまったのは名桜の方だった。知春の胸で大泣きしたことは今思い出しても恥ずかしい。
「はー…かっこわる…。」
「そんなことないです。オールミッションコンプリートです。ミッション後なんですから、どんな顔でも大丈夫ですよ。」
「とりあえず、泣き止みたい。」
「明日お仕事ですか?」
「うん。明日オーディション。」
「え?」
「前言ってたやつ。少女漫画原作のヒーロー役。」
「…すごいタイミングですね。」
「ね。明日うまいこと笑えるかな。」
「難しいかもしれないですけど、でも仕事ってスイッチ入れたら、知春さんは大丈夫な気がします。」
「…ちょっとさ、名桜に頼み事、していい?」
「はい、何でも。」
あの日、救われたのは知春がいてくれたからだった。だからこそ、今はちゃんと返したい。知春がゆっくりと肩から顔を上げた。片足2歩分の距離ができる。
「カメラ、置いて?」
「はい。」
「両手広げて?」
「こう、ですか?」
「うん。そのまま、抱きしめて。」
すっと近付いた距離。そのまま背中にそっと手を回した。
「…もうちょい、力入れれる?」
「こ、こうです、か?」
「うん。」
肩に感じた負荷。疲れと痛みが混ざった重さに、名桜の胸の奥も軋んだ。名桜が力を入れ直すと、それに合わせるように知春の腕が名桜の背中に回った。
「…わがまま、叶えてくれてありがとう。」
「…明日のオーディション、頑張れるように念、送っておきます。」
「はは、ありがと。」