リナリア
* * *
「名桜、おかえり!」
「さすがにたくの方が多く持って帰ってきた。えらいえらい。」
「知春…お前なぁ。名桜ちゃんにいっぱい持たせるわけねーじゃん。」
「名桜。」
「ん?」
「貸して。あとやるから、お前は座ってろ。」
「…うん?ありがとう。」
名桜から買ってきたものを受け取って中身を広げ始める蒼を見て、七海は小さくため息をついた。
(はいはい、いちいち気にしたら負け。そんなのいつものこと。)
頭ではいつだってちゃんとわかっている。蒼が優しくするのは、相手が名桜だからだと。
(ねぇ、蒼。ちゃんと気付いてよ。)
言えない想いを、七海はそっと胸にしまう。あまりにも長いことそうしてきたせいで、そうしないことの方が不自然に思えるくらいになってしまった。
* * *
(…知春が振り返ることは、ない。)
知春から想いが返ってくることはきっとないのだろうということは、薄々感じていた。今は興味が完全に演技の世界にあるように見える。
それでも、いつもと変わらぬ「おはよう」「ありがとう」が、他の女子よりも先に必ず返ってくるこの距離にいたいと願ってしまう。
「知春は何食べるの?」
「んー…そんなにお腹すいてなくて。名桜はちゃんと食べなよ?」
「…お言葉を返しますが、不摂生は私だけじゃありません。」
いつからか、私じゃない女の子にも優しく微笑むようになった。そして、その優しさや笑顔が向けられる時間が『彼女』に流れていることがわかる。
(…知春、気付いて、くれなくていい。…気付いてほしい。私はどっちなの?)
「名桜、おかえり!」
「さすがにたくの方が多く持って帰ってきた。えらいえらい。」
「知春…お前なぁ。名桜ちゃんにいっぱい持たせるわけねーじゃん。」
「名桜。」
「ん?」
「貸して。あとやるから、お前は座ってろ。」
「…うん?ありがとう。」
名桜から買ってきたものを受け取って中身を広げ始める蒼を見て、七海は小さくため息をついた。
(はいはい、いちいち気にしたら負け。そんなのいつものこと。)
頭ではいつだってちゃんとわかっている。蒼が優しくするのは、相手が名桜だからだと。
(ねぇ、蒼。ちゃんと気付いてよ。)
言えない想いを、七海はそっと胸にしまう。あまりにも長いことそうしてきたせいで、そうしないことの方が不自然に思えるくらいになってしまった。
* * *
(…知春が振り返ることは、ない。)
知春から想いが返ってくることはきっとないのだろうということは、薄々感じていた。今は興味が完全に演技の世界にあるように見える。
それでも、いつもと変わらぬ「おはよう」「ありがとう」が、他の女子よりも先に必ず返ってくるこの距離にいたいと願ってしまう。
「知春は何食べるの?」
「んー…そんなにお腹すいてなくて。名桜はちゃんと食べなよ?」
「…お言葉を返しますが、不摂生は私だけじゃありません。」
いつからか、私じゃない女の子にも優しく微笑むようになった。そして、その優しさや笑顔が向けられる時間が『彼女』に流れていることがわかる。
(…知春、気付いて、くれなくていい。…気付いてほしい。私はどっちなの?)