リナリア
* * *
(…間違った。…視線が突き刺さる。)
ふと目に入った、落ちそうな髪飾り。それに手を伸ばしてしまったのがまずかった。それは右の方から突き刺さる視線で気付いた。
『彼は名桜のことが好きなのだ』
ということはわかっていたことだったはずなのに、ついうっかりと名桜、なんて呼んでしまった。
(呼ばれてひょこひょこ来ちゃうってことは、名桜も全然気付いていないんだろうなぁ。)
きっとこの視線にだって気付いていない。もしかしたら、今の名桜には彼の気持ちが重荷になってしまうかもしれない。まだ失恋から立ち直るには時間が足りなすぎる。想い続けることも、諦めることもまだ考えていない状態だろう。名桜がその想いそのものに気付いたのだって、つい最近のことなのだから。
とはいえ、二人の話に自分が首を突っ込んでいいわけがないことも十分すぎるほどわかっている。だからこそ、そんなに敵意を向けないでほしい。
(…名桜が気付いたほうがいいのかどうか、悩むな。)
また泣くかもしれない。できれば名桜に泣いてほしくない。慰め方がわからない。名桜は笑ってくれたけど、あれで合っていたのかもわからない。
(ねぇ、名桜。気付いてないだろうけど、君の周りはすこーし人間関係が複雑になりそうだよ。)
届かない独り言をそっと零して、頑張ってという思いを込めて頭を撫でたかったけれど、そんなことをすればよりいっそう視線が厳しくなってしまう気がして、知春は手を引っ込めた。
(…間違った。…視線が突き刺さる。)
ふと目に入った、落ちそうな髪飾り。それに手を伸ばしてしまったのがまずかった。それは右の方から突き刺さる視線で気付いた。
『彼は名桜のことが好きなのだ』
ということはわかっていたことだったはずなのに、ついうっかりと名桜、なんて呼んでしまった。
(呼ばれてひょこひょこ来ちゃうってことは、名桜も全然気付いていないんだろうなぁ。)
きっとこの視線にだって気付いていない。もしかしたら、今の名桜には彼の気持ちが重荷になってしまうかもしれない。まだ失恋から立ち直るには時間が足りなすぎる。想い続けることも、諦めることもまだ考えていない状態だろう。名桜がその想いそのものに気付いたのだって、つい最近のことなのだから。
とはいえ、二人の話に自分が首を突っ込んでいいわけがないことも十分すぎるほどわかっている。だからこそ、そんなに敵意を向けないでほしい。
(…名桜が気付いたほうがいいのかどうか、悩むな。)
また泣くかもしれない。できれば名桜に泣いてほしくない。慰め方がわからない。名桜は笑ってくれたけど、あれで合っていたのかもわからない。
(ねぇ、名桜。気付いてないだろうけど、君の周りはすこーし人間関係が複雑になりそうだよ。)
届かない独り言をそっと零して、頑張ってという思いを込めて頭を撫でたかったけれど、そんなことをすればよりいっそう視線が厳しくなってしまう気がして、知春は手を引っ込めた。