アシスタント!!
「追い掛けて来てくれるもんだと思いましたよ」


巧が残念そうに。


昼の休憩。


コンビニにいくと口実を作り、部屋を出て駅前のコンビニまで足を伸ばすと巧がいた。


予想が当たった。


「…ごめん」


「結局、挫折はしちゃいましたから、ああ言われても返す言葉ないんですけどね。

やっぱり本に携わる仕事したくて帰ってきちゃいました」


悔しそうに、買ったコーヒーを口に運ぶ。


最近は店内に小さなテーブルと椅子があり、カフェスペースになっているところが増えた。


「直見さん、変わっちゃいましたね。それとも那住の影響ですか?」


もう呼び捨てだ。


「それは…」


「那住のこと、好きなんですね」


直見にとっては、あさっての方向から投げられた直球に、言葉も出ない。


「僕もです」


「えっ?」


「いや、直見さんのことが」


慌てて付け加える。


「那住の仕事、辞めませんか」


矢継ぎ早に来る想定外の言葉に、ぽかんとしていると、


「直見さんなら、プロとしてやっていけますよ。アシスタントと

してじゃなく、なんなら原案出来る人紹介しますし」


人によっては、原案と作画に別れて二人一組で売り出す場合もある。


が、


よほど相性がよくないと続かないし、そもそも売れない。


「私は…」


どちらにしてもこの年で、誰かと組むのは難しいだろう。


合う人間を探す方が難しいことは、直見の方がよく知っている。


年が近いからとか、同性だから気が合うだろうというのは、子供の発想だ。


大人になれば、価値観や経験値の違いで意見が別れることも多い。

よほど直見の方が惚れ込んで、画風を変えるのも可能です、とでも志願すれば話は別だが。


いずれにせよ、口にするほど簡単なことではないということだ。


「遠慮しとくわ。今の生活に満足してるし」


「じゃあ、漫画家としてじゃなく、ひとりの女性として、そばにいてください」


「…それはどういう…」


今日久々に再会した人間に、いつからこの子はこんなことを言う人間になったのかと、耳を疑った。


現実の色恋沙汰に無頓着なままここまで来て、


なぜか縁あって知り合った那住に対して母性本能のようなものを感じ始めた程度だった。


< 9 / 35 >

この作品をシェア

pagetop