失恋にはバリスタ王子の恋ラテをどうぞ。
Menu~6.失恋には、バリスタ王子の恋ラテをどうぞ。
翔と別れて数日。
あたしは、しばらく自分のアパートへは帰らず、本社の一室に泊まり、新作の小説を執筆していた。
あの家にも、翔との思い出がありすぎて、執筆に集中出来なかったからだ。
あの後、カフェにも行っていない。
そうしたら、翔に会ってしまう気がしたから。
連絡先も全て削除して、なるべく考えないように形から入る事にした。
Yシャツにジーンズと仕事の時のラフな格好で、眼鏡越しにパソコンの画面を見つめる。
ーコンコンッ
「先生、入りますよ。どうですか、進み具合は」
入ってきたのは後藤さんだった。
あたしの隣に座り、一緒にパソコンをのぞき込む。
「そうですね……あぁ、目が痛い」
「少し、根を詰めすぎですよ?」
後藤さん「いつもなら締め切りが~!」とか言って泣きそうになってるのに。
「あと、ラストだけですから。それまでの原稿渡します」
あたしは後藤さんに渡す原稿をコピーしていく。
「『失恋には、バリスタ王子の恋ラテをどうぞ。』恋愛こじらせ女子必見で、すごくいいですよね!」
まるで、「乙女か!」と突っ込みたくなる興奮のしように、あたしは苦笑いを浮かべる。
「あのカフェでの時間が、良い題材になったみたいですね」
「そうね……」
これは、あたしの物語。
失恋して、翔にまた恋をして……別れたまでの話。
そしてラスト、そのラストが問題なのよ。
あたしのように、失恋のままでは読者に希望はつなげないし…。