失恋にはバリスタ王子の恋ラテをどうぞ。
Menu~2.バリスタ王子は過ちと約束で私をしばる。
結婚するはず……勝手な妄想だけど、するはずだった彼氏と別れて1日目。
ーカタカタカタカタッ
3LDKのアパートだが、モダンで落ち着く作りのこの我が家で、仕事の時だけかける黒縁眼鏡をかけながら、パソコンのキーボードを叩いている。
締め切り迫る恋愛小説『薔薇の憂鬱』の執筆中だ。
ありえないくらい、普段のいつも通りの日常。
昨日の別れが、夢だったんじゃないかって思うほどに。
ープルルルルルッ
スマホの着信音が鳴る。
ディスプレイには、〈後藤 健助〉の文字。
あたしはスマホの通話ボタンを押し、スピーカーフォンにした。
「先生~っ!!待ち合わせ時間過ぎてますよ~っ!!」
「はぁぁ………」
開口一番、今にも泣きそうな声に、あたしは深々とため息をつく。
後藤 健助(ごとう けんすけ)36歳は、この電話の通り、大人とは思えないオドオド、ナヨナヨっぷりで、ヘタレだ。
stars出版株式会社の編集者で、専属であたしの小説を担当している。
もうかれこれ7年程の付き合いだ。