失恋にはバリスタ王子の恋ラテをどうぞ。


「あー、目が疲れたわ」


あたしは目元を押さえて、机の冷えきったコーヒーを飲み干す。


やっぱり、インスタントはまぁまぁな味。
コーヒーは、カフェ『Bitter Lover』のが一番だ。


執筆の時は必ずと言っていいほど、そこで仕事する。


あそこは、きちんとバリスタがコーヒーを入れているから、味が格段おいしい。


「さて……と」


あたしは白いYシャツにジーンズと色気の何もないラフな格好で眼鏡をかけなおす。


鏡を見て、軽く化粧をする。
すると、首もとの寂しさに気づいた。


そうだ、英太からもらったペンダント……外したんだった。


アクセサリーBOXの中に投げ入れてあるけど、捨てられていない。


あたしも、相当馬鹿だ。


英太は、勝手にあたしを捨てた最低の奴だ。
こんなモノ、持ってたって意味ないのに……。


なのに捨てられないのは、あたしがまだ……。


「って、ううん、もう忘れよう」


あたしは落ち込みかけて、首をぶんぶんと横に振り、鞄をもって立ち上がる。


玄関で靴を履くと、傘立てにあの紺の傘が入っていた。


そういえば、今度返せって言ってたけど……まさか、会えるはずないし。


あたしはその傘から視線をそらして、家を出た。





















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