梅に鶯 ~新選組と私に刀~
夕餉の後



幹部の集まりに呼ばれた



「悠真… 江戸に帰りたいと言ったのは
本当かい?」


「はい」



近藤さんが、悲しそうな顔をした



「理由を聞かせてくれないか?」


「江戸は、故郷です
故郷で、心静かに暮らしたいと
思っただけです」


「そうか……」 








特に誰にも引き留められなかった


やはり


私なんて、いらないのね


そう実感すると



「クスクス …あ、すみません」



笑えてきた


笑うだけで、体のあちこちが痛い





「……僕は、嫌です!
悠真が江戸に帰るのには、反対します!
悠真…お願い…ここにいてよ」



沖田さんの言葉が、すべて心からなら

嬉しいのに……



徳川の、娘を預かっている


それが新選組にとって、良いことで


近藤さんの為、そう言っているのよ








「沖田さんの病は、私がいなくても
治るでしょう」







信じては、いけない


私の中で、江戸へ帰ること以外が


すべて、怖い








「わかった」




苦しい




「悠真は、僕の事なんて、どうでもいいもんね」




辛い





「だけど、僕は……
悠真が、支えなんだ……
江戸に帰るなら、たくさん文が欲しい」




怖い





「私… 文は、嫌いなの
朝比奈さんにも、書かないもの」



筆跡を利用されないように




「やだよ…ここにいてよ…悠真ぁ」




徳川にさえ、生まれなければ


例え、騙されても

ここにいたかった




どれだけ傷つこうとも

土方さんを想っていたかった



どれだけ辛くても

沖田さんの看病がしたかった



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