人魚になんて、なれない
1st Day side波音
七月末の水曜日。とある県立高校。現在の時刻、午前八時。
校庭の端にある二十五メートルプール。
消毒用塩素の臭いがきつい水の中、一人の少女が泳いでいる。
仰向けに泳ぐその姿は、まるで人魚のよう。
少女はプールの中央で動きを止めた。
大きく息を吸い込んで鼻をつまみ、勢いをつけ体を反らして潜る。
口から息を吐くと、ゆっくりと体が沈んでいく。
目を開けると、小さな空気の玉が幾つも幾つも列を成して、水面を目指して上がっていった。
まるで、地上にあこがれていた人魚のように。
ナイトは、この光景を見たのかな……。