人魚になんて、なれない
数時間、絵の具をこねくり回して筆を走らせる作業を続けていると、正午を知らせるチャイムが鳴った。


腹が減っては戦はできぬ。


昼飯にするか。


立ち上がって伸びをする。


ごきごきごき、と節々が音を立てた。


最近ジムをサボってたからな……。


肩を回しながら外を見る。


そういえば、水音がしなくなったな……。


窓に近寄ってプールを見下ろすと、菊池がプールサイドに上がって体を拭いているところだった。


多分あっちも昼飯にするんだろう。


ああ、タオルを返さなきゃな。


借りっぱなしだったタオルは、コインランドリーで洗濯してある。


窓枠にひじをかけてぼんやりと菊池を眺めていると、視線に気付いたのかこっちを見上げている。


……誤解すんなよ?


決してずっと見ていたわけじゃないからな。


ちょっとばかり動揺していると、菊池は大きな手振りで手招きしていた。
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