人魚になんて、なれない
3rd Day side波音
七月最後の金曜日。屋外プール。現在の時刻、午前八時。


波音はプールサイドから勢いよく中へ入る。


すぐに頭まで水に漬かって、泳ぎだす。


水中に、光の柱が何本も立っていた。


青い床に広がる光彩がまぶしいほどだ。


気がすむまで光の模様を楽しんだ後、水の上で仰向けになった。


波音は背泳ぎが好きだった。


空を眺めていられるから。


プールの中は、限られた世界だけれど、空は限りなく続いているから。


……あの海のように。


いつものように、鼻をつまんで勢いよく沈む。


口から息を吐き出すと、徐々に体が落ちていく。


空気の玉が、天に向かって昇っていった。


無数の泡の、水面への短い旅。


水上へ出たら、はじけて消えてしまうのに。


はやくはやく、と先を急ぐように上っていく。


魅力的な『何か』が外の世界にあると信じた、人魚のように。
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