人魚になんて、なれない
屈託なく、顔をくしゃくしゃにして笑う顔が、年上なのになんだか可愛く見えちゃって。


あたし……ちょっと好きかも、この笑顔。


箸を止めて、先生の顔に見入っていたら。


「なんだ、俺の顔に見惚れてるのか?」


にやにやと、今度は意地悪そうな顔で笑った。


……これがなければ、もっといいのに。


「はいはい、そうかもしれませんね」


付き合ってられない、というふうに肩をすくめると、つまらなそうに口を尖らす。


こういう、先生っぽくないところが人気の秘密なんだろうな。


ちょっとかっこいいお兄さん、みたいな感じが、女の子は好きだから。


って、なに冷静に分析してるんだろ。


あたしだってれっきとした女の子なんだから。


「ごちそうさま。今日もうまかったです」


気がついたら、目の前の重箱はいつの間にか空になっていた。


食後の挨拶のあと、うまかったって言ってくれるのがうれしい。


なんだか、作ったかいがあるっていうか……、少しくすぐったい。
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