人魚になんて、なれない
腹いっぱいだ、と伸びをする先生。


Tシャツから伸びた腕に、青い絵の具がついていた。


左ひじの内側についた絵の具と、筋張った腕がなんだかアンバランスで、急に思い出させる。


先生が、美術教師なんだって。


「なあ、菊池」


「なんですか?」


「今日の昼飯の礼、何がいい?」


お礼? お礼なんて、必要ないのに。


これは、お詫びなんだし。


「詫びだから、なんて言うなよ? 昨日ので充分っていったろ」


先生は、あたしの言いたかったことを読んでいた。


「いいですよ。先生、まともな食事してないみたいだから」


「ばぁか。生徒に食生活を管理してもらう教師がどこにいるよ。ほら、なんか言えよ。世の中ギブアンドテイクだぞ」


あ、でもあんまり高いモンはだめだぞ! 俺今月ピンチだからな!


そんな、胸張って言うことじゃないでしょう、先生?


う~ん……お礼ねえ……。


ああ、そうだ!

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