人魚になんて、なれない
とりあえず、あたしと先生はプールサイドに上がった。


「……で、何をやってたんだ」


「そっちこそ、何でこんなところにいたんですか、先生」


予備のタオルを投げつけたあたしは、いるはずのない場所へ現れた臨時美術教師に疑惑の目を向ける。


「俺のことは後回し。名前は?」


胡坐をかいてがしがし頭を拭く先生は、早く答えろというように顎をしゃくった。


いやあね、ちょっとばかし年が上だからって偉ぶって。


……でもまあ、心配させちゃったみたいだから、素直に答えるとするか。


「……菊池波音(なみね)。三年二組、出席番号5番。かに座のO型」


「何をやっていたのか、っていう問いには答えていないぞ」


煙に巻こうとしたのに、結構鋭いな、この人。


聞こえないように舌打ちをすると。


「聞こえてる」


とタオルから除かせた目で睨まれる。


……お耳がよろしいことで。
< 3 / 53 >

この作品をシェア

pagetop