人魚になんて、なれない
なんだか、だんだん話がよくない方向に向かっている。
 

なぜ、合宿に参加しないのか。


それを聞かなかったのは、菊池が泣きそうな顔をしたからで。


追求しなかったのは、自分のためでもあった。


なぜひとりなのか。


そんなこと、気になるに決まってる。


だが、聞いてしまったら、今までの距離が崩れてしまう。


菊池の世界に踏み込みたくはないし、俺の世界にも踏み込ませたくない。


菊池と俺の間にある『一線』。


それを越えたくないから、あえて聞かなかったのに。
 

峰は、俺の気持ちなんかお構いなしに話を続ける。


「波音は、海が嫌いなの」
 

それ以上言うな。


言わないでくれ。


「親友が――――」


その一言で……俺は否応なしに『一線』を踏み越えてしまった。




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