人魚になんて、なれない
「先生、お昼食べてないですよね」


水着の上からTシャツとジャージを着て、あたしは美術室の扉から中を覗いた。


昨日、初めて入った美術室。


その中で、先生はキャンバスに向かっていた。


見たこともない、真剣な顔で。


「……菊池か。今日も……昼飯を作ってくれたのか?」


パレットと筆を机において、先生は振り返る。


声に覇気がないし、なにより、表情がない。


青白い顔をして、目の下にはクマまで作ってる。


「先生、今日は起きるの遅かったですか? 昨日、夜更かししたんでしょう? さては、おねーさんがたくさんいるお店で飲んでましたね?」


ちょっとからかい気味にたずねると、違うよ、とこれまた先生らしくない返答。


先生なら。


『そーなんだよ、いやあもてちゃってもてちゃって、まいったね……ってそんなわけあるか!』


ぐらい言ってもいいのに。


「具合、悪いんですか? 顔色悪いですよ」


横になったほうが、と近づく。


「いや、大丈夫だ。せっかく作ってくれた昼飯、いただくよ」


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