人魚になんて、なれない
「あたしが親友……五十嵐波糸(ないと)と初めて会ったのも、海でした」


小学校五年のときだった。


あたしは海が好きで、毎日のように浜辺に出かけては海を見ていた。


寄せては返す波を飽きることなく見ていたあたしに、ある日、ひとりの男の子が声をかけてきた。


それが、波糸。


親友になるまでに、そう時間はかからなかった。


「波糸も海が大好きで、自分はちょっとした手違いで人間に生まれてきちゃったけど、本当は人魚になるはずだった……なんて、まじめな顔して言うんです」


いつか海に帰るんだ、海が僕を呼んでる。


それが、波糸の口癖。


「あたしほども泳げないくせに、そんなこと言って……。でも、それも本当になっちゃった」


忘れもしない、あの日。


波糸のお母さんが、泣きながら電話をしてきた。受話器を握ったまま、あたしはしばらく動けなかった。


「三年前の夏の日。波糸は海に『帰った』んです」


「……帰ったって……まさか」


先生は、察しがいい。


そうだよ、先生。


先生が思ったとおりのことが起きたの。

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