人魚になんて、なれない
6th Day side海音
八月初旬の月曜日。宿直室。現在の時刻、午前八時。


海音はまだ、朝食もとっていなかった。


昨夜コンビニで買ってきたパンと牛乳が、テーブルの上に並んでいる。


だが、手を出す気になれない。


歯を磨いて顔を洗って鏡を見る。


目の下にクマが二頭住み着いている。


昨日にましてひどい顔だった。


菊池のことを思うと、とても眠れなかった。


親友が海で死んだ、と峰から聞いたときから、とてもとても穏やかではいられない。


踏み入れてしまった一歩がことのほか大きかったからだと、海音は思う。


図らずして聞いてしまった、菊池のひとり合宿の理由。


ひとつ疑問が解消されれば、その先が気になる。


それは人間の性だといってもいいが、この場合、本人に尋ねるのはタブーのはず。


だが、どうしても気になってしまった。


菊池の泣きそうな顔が、あの日から脳裏にちらついて離れない。


あんな顔をさせる原因はなんだろう、という嫉妬めいた感情が生まれてしまった。


ため息をついて、海音は重い腰を上げる。
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