人魚になんて、なれない
結局十二時のチャイムがなるまで、プールには誰も来なかった。


今の今まで気付かなかったが、吹奏楽部の音が結構校内に響いてる。


さまざまな音があふれている。


こんな状況で屋外の水音なんて聞こえようはずもないのに。


俺はそんな小さな音を聞き分けていたんだと、気付かされた。


それだけ、菊池のことを気にしていたんだと。


パレットを放り出して、椅子から立ち上がる。


目の前には、一筆も進まなかったキャンバス。


結局、昨日からまったく変化していない。


「……はあ」


自己嫌悪でため息がでる。


菊池の話が頭の中を巡って、俺を苛む。


嫌なことを思い出させたんじゃないのか。


本当は話したくなかったんじゃないのか。


そんなことばかり頭に浮かんで、どうしようもない。


昨日の菊池は、饒舌だった。


文章もところどころつながっていなかったり飛んでいたり、菊池らしからぬ話し方。


動揺していたんだろうか。
< 43 / 53 >

この作品をシェア

pagetop